ビジョントレーニング®とは、見る力を高め、見たものや自分の体の動きを正しく認識したり(ボディーイメージ)、体を自分のイメージ通りに動かしたりする(ボディーコントロール)機能を高めるトレーニングです。五感の情報は視覚83%、次いで聴覚が11%で、残りの嗅覚3.5%、味覚1.5%、触覚1%だと言われている様に、視覚から受け取る情報が一番多く、視覚を鍛え素早く正確に体を動かせるようになることが、日常生活や学習の躓きの解消・暗記力の向上・運動能力を向上・車などの運転中の認知力の向上・高齢者の認知症予防などに役立ったりすることも、多数報告されています。また加藤(2009)によると、ビジョントレーニング®を行うと前頭葉の内側の広い部分に血流と酸素が集まり、また第一次視覚野が位置する後頭葉以外の脳の成長を促す効果もあると報告されています。前頭葉は人間の運動、言語、思考、判断を司る場所であるので、ビジョントレーニング®をすることでそれらの能力の発達を促すことが期待できます。
〇日常生活や学習の躓きの解消・暗記力の向上
視覚機能が弱いと、勉強や作業に集中できなかったり、整理整頓ができなかったりするなどの症状が現れることが明らかになっています。文部科学省(2022年)の調査によると、通常学級に在籍する小中学生の8.8%に、学習面や行動面で著しい困難を示す発達障がいの可能性があることが明らかになっていますが、それらの子どもにも視覚機能を高めるビジョントレーニング®行うことで発達の躓きが改善される可能性があります。北出(2010)によると、視覚機能を高めるトレーニング(ビジョントレーニング®)を行うことで、「書(描)く力、読む力、作る力(手先の器用さ)、運動する力、集中力・注意力、記憶力、イメージ力」などが身についていくと述べられており、発達障がいのある児童・生徒の躓きの改善の報告もなされています。また、文字や言葉、数字を頭の中で視覚化し、脳の使い方を変えることで能力は飛躍的に向上します。
〇運動能力の向上
「運動神経がよい」などと言われる能力は、眼や耳など感覚器から入ってきた情報を脳が上手に処理して、からだの各部に的確な指令をだす神経回路のことです。この能力を調整力といいます。調整力は、巧緻性・敏捷性(アジリティ)・平衡性(バランス感覚・前庭感覚)・柔軟性などに分けることができます。ビジョントレーニング®には、この調整力の巧緻性・敏捷性・平衡性などを高める効果もあります。 そのため最近では、野球、サッカー、ボクシングなどのプロスポーツ選手に至るまでビジョントレーニング®を取り入れることが多くなっています。
〇車などの運転中の認知力の向上・高齢者の認知症予防
ビジョントレーニング®を行うことで「入力機能(眼)⇒情報処理機能(脳)⇒出力機能(体)」といった眼と脳と体の連携を高めることで脳が活性化され、思考力や判断力が高められ日常生活での行動が驚くほど機敏になっていきます。これにより、認知症予防、転倒予防、交通事故防止などの効果が期待できます。
ビジョントレーニング®の定義は、書籍などでも執筆者によって異なるところがあり、一つに定まっていないのが現状です。当協会では、この視覚機能を高めるビジョントレーニング®には大きく分けて、入力機能、情報処理機能、出力機能の3つの種類に分けております。以下にこの3 つを概説します。
入力機能とは、視力・ピントを合わせる調節機能や眼球運動で対象を眼でとらえることです。読書をするときや黒板の字を写すときに、首が前後左右に動き、眼をあまり動かさない子どもを見かけます。そのような場合は、黒板の板書を写すのに大変時間が掛かったり、本を読む時にも苦労したりしています。スポーツにおいては0.1秒の違いが勝敗に大きく左右するほどの致命傷になる場合が多くあります。そういう意味でも、首や体だけを動かして物を捕らえるのではなく、眼球を素早く動かして物を捕らえる重要性があります。
眼を動かす能力は、体の発達と同じように、子どもの発育の中で徐々に身に付いていくものですが、生活面、学習面、運動面に躓きのある子どもは、入力機能の眼球運動に特に躓きがあることが多く見受けられます。眼球運動トレーニングを繰り返し行うことで、正確に、はやく眼で映像をとらえる能力が培われ生活面、学習面、運動面などの躓きの解消が期待できます。また、その眼球運動トレーニングは大きく分けて、跳躍性眼球運動トレーニング、追従性眼球運動トレーニング、両眼のチームワーク(両眼視機能)の3 つがあります。跳躍性眼球運動トレーニングは、左右の親指を立て、親指から親指へ視線をジャンプさせるトレーニングです(図上)。横、縦、斜めと行う。人ごみの中から人を探すなど、多数の情報の中から自分の必要な視覚情報を得るために必要なトレーニングです。追従性眼球運動トレーニングは、親指を顔の周りに円を描くように動かし、眼でその親指を追うトレーニングです(図中)。反対周りも同様に行います。慣れてくれば、円を大きく描いたり、他の人が描く円などを眼で追ったりも行います。ボールの動きを目で追いかける、文字の書き順を覚えるなど、対象物に合わせ正確に眼だけを動かすトレーニングです。両眼のチームワークは、近くを見るときは眼を寄せる(輻輳)、遠くを見るときは両眼を離す(開散)トレーニングです(図下)。両眼のチームワークができることで正確な立体感、遠近感が獲得できます。これらの眼球運動トレーニングは「眼の体操」として、童謡や園歌、アニメの主題歌など子どもになじみのある曲に合わせて行うと、子どもたちも楽しんで継続的に行えます。また、最初はゆっくりの曲を選び、眼球運動がスムーズにできるようになってから、テンポの速い曲にしていくことも大切です。
入力機能の「追従性眼球運動(Pursuit)」や「跳躍性眼球運動(Saccade)」、「両眼のチームワーク」などによって対象を眼でとらえ、視神経を通ってそれが何であるか脳に送られ認識されます。この認識する脳の働きが情報処理機能の視空間認知です。
視空間認知には、空間知覚(空間認知)と、形態知覚(形態認知)があります。
空間知覚(空間認知)とは、見ているものが、どのように動いているのか、どのくらいの距離の位置にあるのか、他のものとどのような位置関係にあるのか等の空間的な位置関係を認識する能力です。
形態知覚(形態認知)とは、見ているものが何であるかを理解する能力です。眼から入った情報は、様々な点や線、色等で表現されており、それを統合して何かの形で認識する必要があります。この能力が形態知覚(形態認知)です。
また、文字や言葉、体(ボディーイメージ)を頭の中で映像として視覚化しすることも情報処理機能の一つです。ボディーイメージとは、視覚、前庭感覚(バランス感覚)、固有感覚(筋肉や骨を動かす感覚)、聴覚、触覚など自分の身体に関する感覚を使って、自分の身体の傾きや大きさ、力の入れ具合など、自分の体に関する総合的な認識のことです。ボディーイメージが未発達だと体を動かすことがぎこちなかったり、ものとの距離感がつかめなかったりします。ボディーイメージをつかむためには、多様な動きが経験できるような様々な遊びが必要です。ボディーイメージが身に付けば、出力機能の正確なボディーコントロールの動きができるようになります。
出力機能のボディーコントロールとは、眼で見たものを理解できたら、その認知された情報をもとに、手や体を適切に動かす働きのことです。ボディーコントロールを上手く行うには、前述した情報処理機能のボディーイメージが大切になります。また、文字や言葉を、頭の中で映像として視覚化し、脳に保存した情報などを、思い出すことも出力機能の一つです。
当法人の資格認定講座のカリキュラムでは、キッズビジョンインストラクターPROの資格認定講座では、体の発達や粗大運動に焦点をあてた講座となります。幼少期の発達は、粗大運動から微細運動へ発達することが分かっています。眼球運動は微細運動であり、それが上手くできないのは、粗大運動が十分にできていない可能性があります。ですので「情報処理のボディーイメージ」や「出力のボディーコントロール」、並びに「体の発達」について重きを置いたカリキュラムになっております。
ビジョントレーニング®インストラクターPROの資格認定講座では 、眼の感覚機能・眼の運動機能・情報処理機能についての内容となります。その中でも、文字や言葉を頭の中で映像に視覚化することが、学習や日常生活にも特に重要な技術だと考え「情報処理の視覚化」などに重きを置いたカリキュラムにしております(詳細はカリキュラムをご参照ください)。